最近の星空

晩秋の星空

晩秋というひびきがあまりにもぴったりな11月。木々は、赤や黄に紅葉し、吹きぬめる風はさわやかさを通り越して肌寒ささえ感じる。人の心をセンチメンタルで満たし、だれでも寂しがりやにしてしまう。
11月の和名は、「霜月」。文字通り寒くなってきて、霜が降りるようになる月だろうが、「食物月(おしものづき)」の略であるという説もある。これは11月23日の勤労感謝の日を、かつては新嘗祭(にいなめさい)といって今年収穫した米を食べるというところから付いたという。

11月の声とともに、夏の大三角は、西に大きく傾き、東の空からは冬の星座たちが顔をのぞかせている。そして南西の空の木星と土星はかなり近づき、火星は南の中天で赤く輝いている。
 秋の星空には、明るい星が少ないため、晩秋という響きどうりに、しっとりと落ち着いている。とくにみなみのうお座とおうし座の間には目立つ星があまりない。ここには、ギリシャ神話“エチオピア王家の物語”で、アンドロメダ姫を襲おうとして勇者ペルセウスに退治された化けくじらが、灰色の岩となってしまっているからだ。くじら座は、全天第4位の大きさを誇る星座だが、明るいのはしっぽで光る2等星、β星のデネブカイトスだけで、他に目立つ星がないため今ひとつぱっとしない。

 

●古代エチオピア王家の物語

多くの星座には、その星座にまつわるギリシャ神話がセットになっているが、秋の主な6つの星座は、そろって一つの物語に登場する。それもスペクタクル巨編ともいうべき「エチオピア王家の物語」だ。それでは、「エチオピア王家の物語」の始まり始まり。

●キャスト
ペガスス座
天頂に見える秋の四辺形が目印となる星座。ペガスス座は、背中に翼を持つ真白な天馬だ。ヒーローペルセウスを乗せて大空へ舞い上がり故郷へと向かった。ほとんどの星座は上が北になるように描かれているが、この星座は、なぜか逆さま。

アンドロメダ座
「エチオピア王家の物語」に登場するヒロイン、アンドロメダ座は、秋の四辺形の北東角から北東にゆるやかにカーブしながら伸びる星の連なりが目印。エチオピア王国のお姫様が、海岸に鎖で縛られた哀れな姿が描かれている。

カシオペヤ座
エチオピア王妃を描いた星座。つまりアンドロメダ姫の母親。秋の天の川の中で5個の明るい星が、Wの形に並んでいる。娘のことが可愛いくてつい口を滑らしたカシオペヤの一言が物語のきっかけを作ることになった。

ケフェウス座
エチオピアの国王、つまりアンドロメダの父親を描いた星座。カシオペヤ座と北極星の間で、3等星と4等星が細長い五角形を造っている。王様の星座にしてはパッとしないのは、国を守るために苦悩する王の姿を表しているためか。

ペルセウス座
この物語のヒーロー、勇者ペルセウスを描いた星座。魔女メドゥーサを退治した帰りに事件に遭遇することになる。アンドロメダ姫のあまりの美しさに恋に落ちたとか。ゴツゴツしたカーブの星の連なりがたくましさを表している。

くじら座
アンドロメダ姫を襲う悪役星座。普通のクジラとはちょっと違うお化けクジラ。あまり目立たないが、悪役として十分な迫力を持つ、おうし座からみなみのうお座まで広がる、全天で4番目に大きな星座だ。

 エチオピア国王ケフェウスは、妃のカシオペヤと美しい一人娘アンドロメダとともに、仲良くおだやかに暮らしていた。
ところがある日のこと、カシオペヤはこともあろうに「私の一人娘アンドロメダと比べたら、この世で最も美しい海の精ネレイスたちの美しさもかすんでしまうだろう」と自慢してしまったのだ。なんと言う親馬鹿。これを聞いたただでさえプライドの高いネレイスたちは、「人間のくせになんて生意気な」とカンカンに怒った。そして、海の神ポセイドンに仕返しをするように頼んだのだった。
 そこでポセイドンは、このところ生意気になってきた人間どもを懲らしめるいいチャンスとばかりに、海の怪物お化けくじらにエチオピアの国を襲うように命じた。
 それからといもの、エチオピアの海岸には、連日連夜お化けクジラが出没し、漁師達を震え上がらせ、国中は大パニックになってしまった。

 そのころ、ペルセウスは、髪の毛の1本1本がヘビでできていて、その顔を見た者は恐ろしさのあまりたちまち石になってしまうという女の怪物メドゥサを退治するため、世界の西の果てに来ていた。ペルセウスは、鏡のようにピカピカに磨いた盾に映った寝ているメドゥサの姿を見ながらそっと近づいて、すばやくメドゥサの首を切り落とし袋に入れた。
 そのときほとばしりでた血が、岩の割れ目にしみこむと、そこから真白な1頭の馬が跳び出したからびっくり。その白馬は、背中に翼を持ち、怒ると口から火を吐く天馬ペガスス。ペルセウスは、メドゥサの首を袋に入れるとペガススにまたがり、故郷へと飛び立っていった。

 さて、エチオピアでは、思い悩んだケフェウス王は、神にお伺いをたてることにした。苦しいときの神頼み。すると神からは、「一人娘アンドロメダを化けクジラの生け贄に差し出せ」とのお告げ。妻のたわいもない一言がこんなことになるなんて・・・・・王は国を救うためならと、断腸の思いで泣く泣くかわいいアンドロメダ姫を生け贄に差し出すことにした。
 荒れ狂う海岸に鎖で縛られたアンドロメダ姫は、あまりの怖さに泣き叫んだが、沖からすごい勢いで迫ってくる黒い大きな化けクジラの姿を見ると、あきらめたように目を閉じました。神様・・・・・
 いよいよお化けくじらがアンドロメダ姫に襲いかかろうとしたそのとき、メドゥサを退治して故郷に帰る途中のペルセウスが、ペガススにまたがってその上空を通りかかった。下界を見下ろすと、美しい女性が岩場に縛られ、沖から泳いでくる怪物が今にも襲いかかろうとしている。
ただ事ではないと見たペルセウスは、ケフェウス王に事情を聞き、首尾よく助けたら結婚を許すという約束を取り付けると、再びペガススにまたがると化けくじら退治に向かった。
恋のパワーは100万馬力、自慢の剣を振り上げると急降下して化けくじらに切りつけた。しかし相手はあまりにも大きく、とても歯が立たない。それどころかペルセウスの形勢は不利になるばかり。そのときペルセウスの頭に名案が。・・・・・治したメドゥサの首を袋から出すと化けクジラの前にこれでどうだとばかりに差し出した。怪物対怪物の戦い。しばらく両者見合ったままだったが、やがてお化けクジラは見る見るうちに動きが悪くなり、やがて大きな岩になって海の底に沈んでいった。
こうしてアンドロメダ姫を救った勇者ペルセウスは、やがてアンドロメダ姫と結婚してふるさとに帰り幸せに暮らしたという。

めでたしめでたしと、一件落着したように見えるこのお話。よくよく考えてみると、お化けくずらを退治したからといって、何の解決にもなっていないのでは?そもそも、母カシオペヤの娘自慢発端で、海の精ネレイスたちが怒り、そこに海の神ポセイドンまでもが1枚かんだのだから、化けくじらを退治さたところで済まされまい。いや逆に可愛がっていたペットがやられてしまったので、もっと頭に血が上っているのではないか。きっとポセイドンは次の策を打ってくるに違いない。
それなのに、ペルセウスは、こともあろうに一人娘のアンドロメダを嫁にもらって、さっさと故郷に帰ってしまった。
このあと、エチオピアの国はどうなってしまうのだろうかと、心配になるのは私だけ?
一見たわいもないギリシャ神話も、ほんの少し深読みしてみると、また違った楽しみが沸いてくるのではないだろうか。