山田卓先生を想う3

山田卓氏のプラネタリウムの新たな試み第2弾 

プラネタリウム倶楽部              (星ナビ2002年9月号より 浅田執筆)

 低迷するプラネタリウムを嘆く山田卓氏が、プラネタリウムの新たなる方向性を示した四日市市立博物館での「超プラネタリウム・大人のための実験プラネタリウム」。(本誌2001年8月号で紹介)
その第2弾が、三重県松阪市にある三重県立こどもの城プラネタリウムでこの5月から7回シリーズで始まった。題して「プラネタリウム倶楽部」。パンフレットを見てみるとテーマは四日市市立博物館の超プラと大差ないように思えるが、対象が「大人のため」から「大人も子供も」に変わり、さらに時間が毎月第4土曜日午後6時から9時となっている。
 常識的にプラネタリウムの投影時間は、子供が集中力から考えて、30分から40分といわれている。「プラネタリウム倶楽部」は大人だけでなく子供までもプラネタリウムに3時間も缶詰にしようという常識破りの企画なのである。
その気になる内容をパンフから引用すると
1.プラネタリウム:プラネタリウムの星空をわかりやすい解説と美しい音楽で楽しむ。
2.ティータイム:お茶を飲みながらみんなで楽しくワイワイと。講師との直接対話も。
3.観望会:晴れていたらプラネで覚えた星を本物の空で見つけましょう。天体望遠鏡での観望も。
4.宇宙の話:宇宙と人間を知るのに必要なテーマを、大人に興味深く子供にちょっと難しい・・・でもそれがとても面白いのです。時には各分野の専門家を迎えて楽しい宇宙談義や実験を・・・・
これだけではよくわからないが、今までのプラネや講演会とはかなり趣向が違うようだ。というわけで百聞は一見にしかず、とにかく第2回目の「コーヒーカップの中にも宇宙がある」を聴きにいってみた。
 開演5分前、ドームの中に観客が入り始める。でもスタッフや出演者「これから本番」という緊張感はかけらも感じられないリラックスムードだ。やがて照明が少し落とされ、正面に立つ山田氏にスポットライトが当たる。簡単な挨拶とプラネの中でピアノ演奏してくれる松阪のピアニスト奥村見栄さんを紹介したあと、本題に入ってゆく。
まずは1人目のゲストである、名古屋市科学館学芸員の毛利勝廣氏が登場。山田氏とともに行かれたテニアン金環日食のようすを、ピアノをBGMとともに紹介。山田氏がこだわったと言う金環の美しい木漏れ日の映像と金環の拡大写真が交互に映し出され、臨場感が伝わった。続いてドームは星空に変わりピアノの演奏とともにゆっくり日周運動をする。リラクゼーションプラネタリウムだ。心が癒されたところで、山田氏の名星空解説が始まる。ふと時計を見ると始まってからもう1時間15分が過ぎている。
 そしていよいよメインテーマである「コーヒーカップの中にも宇宙がる」が始まる。まずは、コーヒーカップに注がれたコーヒーをかき混ぜ、そこにミルクを流し込んだときにできる渦巻きを撮影したビデオを紹介しながら、ミルクを注ぐ位置によって渦巻きの形や大きさ、渦のできる数が違うことを説明し、宇宙の誕生もこれと似て単純ではなく複雑だったのではないだろうか。また、一見無秩序に見えるような宇宙にも秩序がありこれをフラクタルと呼んでいる。というところで、とりあえず前半が終わる。そして「屋上で星を見ながら実際にコーヒーカップの中に自分の宇宙を作って見ましょう」の声に全員屋上に上がって星空観望しながらティータイム。そこには地元望遠鏡販売店テレスコープセンターアイベルとボランティアの協力による望遠鏡と、脇のテーブルにはコーヒー・紅茶とお菓子が用意してあり、各自コーヒーカップの中に宇宙をつくったり、望遠鏡をのぞいたり、講師に直接質問したりしてのんびりと過ごすひととき。
プラネに戻った後は、二人目のゲスト名古屋市科学館学芸員であり理学博士でもある野田学氏のフラクタル講座。ロシアの民芸品ペトルーシュカ人形、月のクレーター、星のゆらぎ、騒音などを引き合いに出しながらフラクタルについて楽しく解説してくれた。そして最後に質問コーナーがあり終了となった。気がつくと時計の針は9時をさしていた。
 プラネ解説、講座、観望会、生演奏一つ一つは斬新なものではないし、言ってみれば雑居ビルのような講演会なのだが、山田氏の難しいようで楽しい語りと、その間に入るゲストの講座や生演奏、それにティータームと観望会。これらが絶妙に組み合わされ、観客はいつのまにかその中に引き込まれてしまう。少し硬派の「超プラネタリウム」とはちがい、終始アットホームな雰囲気で大人も子供も飽きることなくあっという間の3時間を楽しんだにちがいないと確信した。これはもう“山田マジック”以外の何者でもない。
 プラネタリウムは、ハードもソフトも確かに進化して想像を絶するようなバーチャルの世界を表現できるようになってはいるが、人が人である限り本当の満足感や充実感はドームの中で解説者と観客の心が一体になったときに始めて得られるものなのだとつくづく思いながら帰路に着いた。

今後の予定は次の通り(いずれも第4土曜日午後6時から3時間程度)
第4回 8月24日 超新星爆発がつくるモノ?
第5回 9月28日 浦島太郎が歳をとらないわけ
第6回 10月26日 ほうき星は地球の母?
第7回 3月22日 おーい 宇宙人!
料金:大人1000円 小中学生500円

三重県立みえこどもの城
〒515-0054
三重県松阪市立野町1291中部台運動公園内
TEL.0598-23-7735
URL http://www.mie-cc.or.jp

2024年03月22日