美事だった中秋の名月

 10月1日は中秋の名月だった。いつもは9月中旬に当たることが多く、日本は台風と秋霖の真っ盛りで、実はあまり晴れない。しかし今年は、4月に閏月が入ったため、台風も秋霖も収まる10月の少し遅めの中秋となったおかげで、晴天に恵まれ見事な名月を愛でることができた。
 中秋の名月は、平安時代に中国から伝わった風習で、月を愛でる情緒的なお月見が東アジアで広まった。ところが西洋では満月を忌み嫌う習慣がある。満月の光を浴びて眠ると、気が狂うといわれ、ルナシーとかルナティックと呼んでいる。そう、狼男伝説その代表だ。右脳で感じるか左脳で見るかの違いなのか、東洋と西洋の感じ方がこんなところにも表れている。
 中秋の名月の翌日の月を、十五夜の次だから十六夜というが、「じゅうろくや」と読まず「いざよい」と呼ぶところが日本人の心だと感じずにはいられない。
 昔、「なぜ「いざよい」」と読むのか?と、とあるおばあちゃんに聞いたことがある。すると「そんなの決まってるじゃない。お月見のときはお酒を飲むでしょ。「いざ酔うぞ」なのよ」って。おそらく冗談だったと思っているが、真相は、いざようとは、恥じらうとか後ずさるという意味がって、月の出が1日に約50分遅れることから、十六夜は、十五夜に比べて50分遅く昇る様子が、恥じらうように見えたことから「いざよい」と読むようになったという。今年は十六夜も美しかった。
 単に適当に名を付けたわけではなく、先人たちは、自然の営みをしっかり見て、そこに右脳で感じる情緒的な言葉を当てはめたというわけだ。こんな先人たちの自然に対する感覚を、今に生きる私たちも感じ、きちんと引き継いでいきたい。
 こんな偉そうなことを書きながら、情緒も風情もない今年の中秋と十六夜の月の写真を掲載しておこう。


2020年10月03日